父と母の真実


世田谷区・祖師ヶ谷大蔵の『クルー』というバー。
今から何十年も昔、ここで父と母は出会った。

『クルー』のマスターと、マスターの奥様であるママとは未だに親交があり、遊びに行く度耳にタコが出来る程聞かされた。

「あんたのお父さんの歌、すごく素敵だったのよ」と…。

父はそこで得意のギターと歌で弾き語りのアルバイトをしていたのだ。

そこに客としてやって来たのが母(当時23歳)。
始めは男に連れられてやって来たという母も、いつしか1人で毎晩通うようになったという。


背が高く、細身で美人だった母。
背が低く、目ばかりがギョロギョロ目立つ、小太りの父(笑)

このアンバランスな2人がある日突然「結婚する」と…。
父と母の恋は、誰も知らないところで密かに育っていたのだ。

「冗談だと思って何日も信じてなかったのよ」
と『クルー』のママ。


「きっとお父さんが『結婚してくれ』って土下座して頼んだのよ」
と、マスターとママは言う。

「仕方ないから結婚したの」
と、笑いながら母が言う。

父は黙って微笑んでいる。


でも不思議だ…。
母は私と同じで、お酒が一滴も飲めないのだ。
何が目的でたった1人、『クルー』に通っていたのだろうか?

真実は闇の中…。


1978年7月16日。
父は真っ昼間だというのに『クルー』でマスターとママと飲んでいた。
その頃、すぐ近くの大きな病院で私が産まれた。

母は未だに言う。
「人が苦しんでるって時にお酒なんて飲んで…」

でも、私はなんだか嬉しかった。
父も嬉しかったのだ。


今はなき、バー『クルー』…。
私も1度行ってみたかった。



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